なんとなくだ。
 なんとなくだが、やはりそうだ。
泉はそういうことに関して、いやに鈍感なのだ。
だいたい気付きそうなものだ。
いったい何のために、今日はバイトを休みにしたのか。
いったい何のために、今夜は山芋入りのお好み焼きだったのか。
いったい何のために、わざわざ宣言してから「これ、すっぽんエキス入ってるんだ」って言ってから、風呂上がりに栄養ドリンクを飲んだのか。
答えは一つしかないじゃないか!!
なのに。なのにだ。
さっきから、泉はポッキーを食べながらずるずると緑茶を(しかも勝手に入れて)飲み、漫画をめくっているばかりである。
オレは泉を押し倒したくなる欲望を抑えつつ、ベッドに腰を下ろした。ちょうど、ベッドに背を持たせかけて座っている泉の斜め後ろで、ある。ふと泉の方に目をやると、サラサラした黒髪が濡れて、そこがまた妙にそそる。
そそる、なんてオヤジ臭い表現をした自分を少し残念に思いながら、しかし、このままおあずけされているわけにもいかないので、泉が漫画を一冊読み終わるまで、その間十五分(オレにとっては三時間くらいに感じた)待ってから、オレはなんとなく、なんとなくを装って泉の頭を撫でた。
しかし、その手はぱんと軽い音を立てて泉に跳ねのけられてしまった。
「触ってんじゃねぇよ、バカ浜田!」
泉が不機嫌な表情で後ろを向いてオレを睨みつける。いったいオレが何をしたというのか。
「牛乳もらうぜー」
言いながら泉は流し台の方にひたひたと歩いて行って湯呑をすすぎ、そこに今度はパックから牛乳を注いだ。
泉は寝る前に必ず牛乳を飲む。なんでも、そうすれば背が伸びると信じているらしい。
飲み終わってから戻ってきた泉は、ベッドに座っている俺の正面に立って上から睨みつけるように、「あのさ、お前、今日狙いすぎなんだよ!」と言い放った。
泉の言葉に、オレはぎくりとした。
さすがに、あれだけやればやはり気付くものか。
「俺は逃げも隠れもしないっての」
泉は呆れたような口調で、一息にそう言った。
なんだよ。
逆に肩透かしを食らった形の俺は、へなへなとベッドに仰向けで倒れ込んだ
泉はそんなオレの隣に、半分怒っているような、半分呆れているようなそんな調子で横になった。
「だいたい、期待してなかったら休みの前日にお前の部屋なんか来るかっつーの」
驚いたオレは泉の方を見た。目を閉じたままの泉は、心なしか顔が赤い気がする。
俺の我慢は、すぐに臨界点に到達したのだった。
オレは泉の首元に、噛みつくようにキスを落とした。
痕が残るのことは嫌がらないが、しかし、それを他人に見られることを物凄く嫌がる泉に、獣になりつつある頭で配慮して、鎖骨の間の少し下の方に吸いつく。
「んっ」という苦痛とも快感とも取れる声を洩らした泉は、無意識なのか意識してなのか、腕を絡みつけるようにぐっとオレの背中に回してくる。
オレは少し乱暴に泉のシャツを脱がす。胸元にはしっかりと赤黒い痕跡が残り、征服したような気分になる。
次に、意図的に左の乳首から舌を這わせていく。
実のところ、泉は右の乳首の方が、感度良好なのだ。もちろん、それはオレが右利きだからというところに理由があるのだが。
少しずつ吸う力を強めながら、右手の指の腹で泉の右の胸元を撫でまわす。
先程から、というかいつもそうなのだが、泉は必死に声を出すまいとする。
最初の内はそのことをちょっと不満に思わなくもなかったが、我慢している感じがとってもいいじゃないかと最近では思うばかりである。
オレはいったん唇を離し、そこから一気に右側を攻め始めた。
声を抑えつつ身を捩らせる泉であるが、体格差で完全に上になっているオレの方が勝るので、逃げ場がない。
そうとはわかっていても、オレはさらに完全に身動きをとれなくするために、右腕を完全に泉の背中の方に回していく。
胸元を弄っていた左手を、触るか触らないかの加減で、すっと、ゆっくり撫でるように脇腹のラインに沿って下まで持って行き、寝巻代わりに着ているジャージの膨らみをそっと撫でた。
山芋やスッポンが効いているのかは定かではないが、オレはいつもよりひどく興奮している気がする。泉の方にもそれが伝染しているのか、いつもより固くて、薄いジャージの生地に小さなシミが出来ている。
オレはジャージの上から泉のモノを撫で回した。いや、撫でまわすというよりも、捏ね繰り回した。シミが少しずつ大きくなっていき、オレの指や手のひらがなんとなく湿っぽくなっていく。
心拍数が明らかにいつもより高い。オレも泉も。
オレは泉の胸元から離れ、シミの広がったジャージの上から泉の物を咥え込んだ。
途端に泉の身体が跳ね、「んんっ」という声が溢れ出る。
「無理すんなって…声出していいんだぜ…」
わざと耳元で吐息を多分に混ぜながら囁く。
囁くと、泉のモノがビクンと跳ねる感触が手のひらに感じる。
そろそろかと、オレは泉のジャージを一気に膝の辺りまで脱がせた。同時に、泉のモノが勢いよく飛び出し、臍のあたりにあたって、ビチッという濁った音を立てた。
オレは泉のモノの根元を持って垂直にし、裏側にすっと舌を這わせた。先走りの汁が溢れ出るそれは、苦いような辛いような特異な味だが、オレはこの味が嫌いではない。
一気に喉の奥まで使って咥え込み、それから口腔全体を使って攻めていく。
同時に、オレの方もジャージを脱ぎ捨て、いわゆる69の体勢を取ろうと泉の顔の前に来るように調整して、自分のモノを突き出した。
泉は躊躇なくそれを口に含み、一心に舌を使い始めた。時折、口の端から漏れる息遣いがやけにいやらしい。
オレは攻めをいったん中断して、ベッドの下からローションを取り出した。ベタベタするタイプでは無く、ヌルヌルする乾きにくいタイプのものだ。
泉の舌技に油断しないように、オレは左腕で身体を支えながら、右手でチューブの蓋を開け、そしてぐっと握って一気にローションを絞り出した。
トロトロとした粘液が泉のモノの先端からゆっくりと棒を伝って、下の方へと流れて行く。
オレは泉の口から自分のモノを抜き、それからベッドの上を移動し、泉のモノを左手で、そして後ろの方を右手で、同時に攻め始めた。
ひあっ!
ここに来て、さすがの泉も我慢できなくなったのか、少し高い、艶っぽい声を出した。
ぴちゃぴちゃという水音が部屋に響く。その合間に、泉の押し殺した低い、それでいて艶やかな息遣いが響く。
「入れるからな?」
一声かけると、泉は観念したかのように首を縦に振り、自らの右腕を、固く閉じた眼の上に置いた。泉は挿入の時はいつもそうしている。その理由を聞いたことは無いが、本人なりに何かあるのだろう。
つけるものをつけてから、オレはゆっくりと泉の中に自分のモノを埋めて行った。
初めての時は苦労したけれど、今ではもう、すんなりと受け入れられるようになっている。
それでも、やはり入れるときはキツイようで、「んう」っと少し苦しそうな声を出す。そういう時は一旦そこで止めて、そして落ち着いてからゆっくりと挿入を再開する。
泉は案の外に、力を抜くのが上手くないらしい。
根元まで埋め込んでから、「動かすね」と優しく言ってから腰を動かす。身体の負担はやはり大きく違うものだろうから、オレはそこでせめてもの優しさをかける。
んっ、うっ、くっ…はっ、おっ…
前後させる度に、泉は荒い息遣いで応える。
一番感じるポイントを突くと、泉の全身が震える。自分が気持ち良いようにするといいという話は聞いていたが、実際、この時が一番、泉と連動しているのだと感じる。
相変わらずの水音。泉とオレの呼吸。
「悪ぃ…先に…出るわ」
泉がそう言ったので、オレは動きを速めた。
あっ…う…うあっっ!!
泉のモノが心なしか膨らんで、それから勢いよく白濁液が吹き上げる。
飛び出した汁は泉自身の顔や胸、腹を白く汚していた。
その様子に興奮したオレは、泉の身体から自分のモノをゆるりと引っこ抜き、それから一気に扱きあげ、果てた。
後で怒られるかなと思ったが、構わずにオレは泉の全身に自分のをぶちまけた。
泉の全身が、二人分の白濁でドロドロに汚れていた。
だが、オレは構わずに虚ろな目をしている泉に抱きつき、唇を重ねた。
生温かいような、ぬるりとした液体がちゅるという音を立てたが、そんなことは気にしない。
泉の方から珍しく舌を入れてくる。こういうところが、たまらなく可愛い。
オレはゆっくりと泉の頭を撫でた。今度は泉も、素直に受け入れた。
あらかじめ湯を張っていた浴槽に泉が浸かっている横で、オレはシャワーを使って身体を洗っている。
こういう時に、風呂とトイレが別々の部屋に住んでいてよかったなと密かに思う。
事を成し終えた後のいつもの光景である。
「そういえばさぁ、」
「ん?」
スポンジで身体をこすりながら泉に話しかける。
「お前って、挿入れられる時、なんで眼を押さえてんの?」
訊いてから泉の方を向く。
泉は何も答えずに黙っている。
なあ。
ねえ。
いずみくーん。
こうすけー。
「お前に見られてるみたいで恥ずかしいんだこのバカ浜田!!」
泉は勢いよくそう言ってから、真っ赤な顔で口までお湯につけ、ポコポコといくつも小さな泡を立てている。
そんな泉が可愛くて仕方がなくなって、オレは泡をさっと流してシャワーを止め、一人でも狭い浴槽に、無理やり入り込んだ。
「こら、入ってくんじゃねーよバカ浜田!」
「と言いつつ、スペース空けてくれてるじゃん!」
「うるせー!面倒だから逃げてんだよ!お前のために空けてやるわけ…」
言葉の途中で、オレは後ろから泉をぎゅっと抱きしめた。
観念したのか、それとも嬉しいのか、泉は大人しくされるがままにしている。
小さな背中から、少しだけ早い鼓動が伝わってくる。温かで優しいリズム。
しばらくそうしていたが、風邪をひいてもいけないと思い、オレはゆっくりと泉から身体を離そうとした。
「もうちょっとだけ」
身体がゆっくりと離れた瞬間だった。
まるで条件反射のように、素早く泉がきっぱりとそう言ったのだ。
驚いて泉を見やると、頬が心なしか赤く染まっている。
やっぱり可愛いなと、改めて強く愛しく思いながら、オレは泉をぎゅっと抱きしめたのだった。